« September 2004 | Main | November 2004 »

October 31, 2004

光州 (クヮンジュ) ビエンナーレ 光州市仲外公園 他 9.10-11.13





光州ビエンナーレ本展示場。
ジェニファー・スタインカンプの『The River of No Return』が見える





また、今回はソウルから離れて光州から。

すでに5回目になる「光州ビエンナーレ」。
今回は、仲外公園の本会場、教育弘報館、5.18自由公園、そして新しくできた光州市地下鉄の駅構内や車両の4つに分かれて展示が行なわれている。

これは光州ビエンナーレが話題に上るたびに解説されることなのですでに知られているとは思うが、光州は、1980年5月8日に民主化運動が激化した際に軍が制圧に入り、制圧終了までに政府発表では200人近く、噂では2千人近く民間人の死者が出たと言われるところである。
これを「光州事件」といい、1987年の大統領特設国民投票以降まで歴史の闇に葬られていた事件である。
もともと光州のある全羅道(チョルラド)と慶州(キョンジュ)のある慶尚道(キョンサンド)は政治的に対立しており、全羅道出身の金大中が大統領になるまで政治的優遇を得なかったこの地方は、中央に対する反骨の地としても語られる。


今回のビエンナーレのテーマは「一塵一滴」。
死(韓国語では死ぬことを慣用表現で「塵になる」という)と生、文明と自然の対向を示している。
芸術総監督はNY大学と高麗大学校の教授・李龍雨(イ・ヨンウ)。
『白南準、その熾烈な生と芸術』(ヨルウム社)というナムジュン・パイクの伝記など、主にビデオ・アートに関しての著書が多い。

また、光州ビエンナーレはもとより市民参加を掲げた美術展であって、今回は「見る美術からする美術へ」という文句で、市民や識者がアーティストと組んで作品作りをすることになっている。



■ 本会場


展示は、まず、2つの展示場をつなぐ渡り廊下にジェニファー・スタインカンプの『The River of No Return』がお目見え。
発光ダイオード(LED)スクリーンに、極端にコントラストのはっきりした川面が映し出されている。
タイトルはマリリン・モンローの『帰らざる河』から。


第1展示場のテーマは「塵」。
文明社会の空しさを語る作品が多くを占める。
テレビも家も電話もペットもすべてあるのに、その中心にいる人はなぜか寂しく見える、という韓国のチョン・スチョンのインスタレーション『風景画』が、一番観客に自分の身を振り返らせるのではないか。

会場に入ると、いきなり自分の出版した本『Point Blank』をひたすら銃で撃ちまくるパフォーマンスを映像で映した『悪魔は決して眠らない』というケンデル・ギアーズの作品に釘付けになる。
タッグを組んだのはイタリアで左翼的民衆運動を率いた政治哲学者、アントニオ・ネグリ。
ちなみに、近年までマルクス思想が一切排除され、ポストモダン思想が奨励されてきた韓国では、実際の敵を想定しないネグリの本はよく読まれているという。

中国の作家も目立っている。
岳敏君(ユー・ミンジュン)の、作家自身の顔をデフォルメした大げさな笑顔のキャラクターを幾十人も絡ませた絵画と彫刻『ロマン主義とリアリズムの研究』は個性や思惟をなくした市民の姿を映しているし、人骨の灰で作られた大きな柱を壁に立てかけた孫原+彭禹(スン・ユエン+ペン・ユー、横浜トリエンナーレやリヨンビエンナーレに出展)の合作『One or All』も死と生、肉体と霊魂について深く考えられた作品で、強烈。

日本人作家では、鳥光桃代が建築家の隈研吾とタッグを組んで『地平/視野』(インスタレーションと映像)を出展。
インスタレーションでは、ヨーロッパ人(映像ではドイツ人)、中国人(同じく香港人)、アメリカ人のサラリーマンたちが利権を求めて箱庭(=世界)を匍匐(ほふく)前進で進む。
しかし、何十体ものサラリーマン人形のネジを巻き、障害物にぶつかっても前進しようと喘いでいる彼らを棒で方向転換させてやっている妙齢の学芸員の女性が、世界で一番強く見えた。


第2展示場「水」へ行くには、暗闇に赤色発光ダイオードの数字がささやかにきらめく宮島達男の『Time River』を渡って行く。
境界線、もしくは妙に聞こえるかもしれないが、「三途の川」のような存在。
此と彼をはっきりと分けている。
生と死、文明と自然、北と南、全羅と慶尚。


第2展示場で特に良かったのは、キム・スンヨンの『記憶の部屋』。
直径9メートルの水の盆に、天井から吊り下げられたいくつものスポイトから、それぞれの間隔を守りながら水が一滴ずつ落ちる。
人の記憶に緩やかな波紋が広がる。
周りは背面のない本棚のような木の柵に囲まれており、中の盆は見えるがこちら(他者)とは区切られている。
一ヵ所のみ、何十センチかの隙間が開けられており、他者の介入を許している。
この作品は、光州の高校で歴史を教える教師とタッグを組んだことで、また意味が深まる。


第3、4展示場は「塵+水」がテーマ。

面白かったのはイ・キョンホの『ムーンライト・ソナタ』。
「あの」ミウッチャ・プラダとタッグを組んだ。
展示スペースには、炭酸せんべいのような駄菓子を作る機械とそのせんべいの山が置いてある。
機械のあちこちにはカメラが据えられて、映像を四面の壁に映し出しており、学芸員による駄菓子づくり実演の際には、迫力ある映像を見せてくれる。
実演では、ポン菓子を作るときのような音とともに機械からせんべいがすごい勢いで飛ばされるのだが、空気抵抗を受けてせんべいが思わぬところに飛んで行ったりして、学芸員がてんてこまいであった。
できたてのせんべいをもらった。ほのかな甘み。この上なく地味なお菓子だ。
展示室の外には、せんべいの広告映像がモニターで映し出されている。
ひたすら機械からせんべいが発射される瞬間が繰り返される。
いい意味でとても馬鹿馬鹿しく作ってあって、おもしろかった。
一つ1000ウォン。高いと思ったら、前はプラダがデザインした紙袋に入れて売られていたらしい。
世界的有名ブランドと駄菓子の、対極のコラボレーション。

地下には「クラブ」と題して「美学的遊びの空間、クラブショー」が開かれる会場がある。
パフォーマンスなどは見ることができなかったが、展示がいくらかあった。
韓国美術史における重要人物そっくりの人形を並べた展示などは、「なんだろこれ」という感じ。
端に車椅子のナムジュン・パイクもいた。
韓国の美大教授は、みんな「パイクはもうアメリカ人じゃないか」と言うのだが。
そういえば、日本ではオノ・ヨーコを「アメリカ人」とは言わない。




■ サテライト会場


教育弘報館では、「韓国特急」というテーマで韓国作家の作品のみが展示されている。
キム・アタは、今までも撮り続けてきたヌードの人物と仏教を融合させた写真を出展。
イ・ハンスも自分の作風どおり、レーザー光線と仏像を使ったインスタレーション。
仏像をトイレに飾ったシン・ミギョンといい、仏教多し。


5.18自由公園は「その他のなにか」と題されていた。
なんか全部一緒くたにされてしまった感じのあるテーマ。
しかし、もっとも政治的な作品が集まっている。これも韓国の作家ばかり。
さらに、自由公園は光州の民主化運動の時に刑務所として使われたところ。
事件と場所の記憶をはっきりと感じられる。

戦争状態においていかに人間はただの「コマ」になるかという作品を作ってきたイ・ブロク(サビナ美術館の『リアリング15年』展にも出展)や、韓国の下町を写真に撮り、看板の文字をすべて消して異様な雰囲気を演出したパク・ジュヨンなど。



 
地下鉄駅の展示。
(左)エスカレータの乗り口。間島領一の作品の一部が見える。
(右)トイレ。美大のグループが作ったもの。


「ビエンナーレ・エコメトロ」と題された展示は光州市地下鉄・錦南路4街(クムナムノサーガ)駅にて。
なぜ地下鉄駅なのか。
エコと電車の関係、あとは新しくできた地下鉄を知ってもらう意味合いもあったろう。

韓国の作家では、韓国・ビデオアートの重鎮と言ってもよい陸根丙(ユッ・クンビョン)の『The sound of landscape + eye for field = a sperm』をはじめ、瞳だけが真っ黒であとは全身真っ白の子どもの等身大人形を扇形に並べたイム・ヨンソン『Dilemma - 01 project』など。

日本人作家も集められていた。
間島領一の『Birth』は鳥の巣を模したインスタレーション。
山本基は白い砂を使って迷路を描く
また、大石広和の『Dot Fish』など写真作品もいくつか。





この光州ビエンナーレといい、釜山ビエンナーレといい、企画者は「普通の市民」と「現代美術」の間にある隙間を埋めようと心を砕いているようだ。
それが今回の光州ビエンナーレでは「市民や識者がアーティストと組む」というアイディアにもなったのだが、果たしてそれが良い効果を生んだのかどうかはよく分からなかった。
前回の光州ビエンナーレで、市民参加のアイディアにより会場案内をまかされた光州市民に、「これが美術か? これも芸術か? 向こうの北朝鮮館で展示されている山水画のほうがよっぽど芸術だよ」と笑われるよりは、はるかに良かったが…。

あと、本会場では校外学習と見られる子どもの団体が多すぎた。
幼稚園児から高校生まで、嬌声を上げながらなだれこんでくる集団の多いこと多いこと。
団体は、日を分散させたらどうでしょう。

Posted by art,seoul at 06:07 PM

October 18, 2004

イ・ブル展、 ユン・ジュギョン 『Contents Of Self-portrait』展、 チャ・ソリム 『message&code』展

こまごまと3件。


『イ・ブル展』 pkm gallery



pkm galleryのエントランス。


イ・ブル(李咄)についてはもうよく知られているので、あまり説明する必要がないだろう(名前も強烈だ)。
グロテスクとフェミニズムを融合させた一見エイリアンのようなオブジェ、ビーズやクリスタルをワイヤーでつないだメルヘンチックであるがグロテスクな(ビーズをまとったワイヤーが多数触手のように伸びている)作品などを生み出して、国際的な評価を得ている。ソウル在住。
日本では、去年、東京の国際交流基金アジアセンターで『世界の舞台』と題して大きな展覧会が開かれた。


場所は、観光地で有名な仁寺洞(インサドン)からアートソンジェセンターの方向へ歩いたファドンというところにあるpkm gallery
ベッヒャーやブルース・ナウマン、最近では若手のハム・ジン(極小の立体作品を作ってギャラリーに配置、観客に見つけ出させるもの)など国内外のアーティストの展覧会を開いてきた。


イ・ブルも初めてではなく、去年はドローイングのみの展覧会を行なっている。


今回はおなじみのエイリアン的オブジェが1階と2階に一体ずつ、1、2階にエナメルの板に螺鈿を埋め込み、花と虫とエイリアンがお互いを蝕んでいるような物体を描いた作品が10点ほど、またクリスタルとビーズで作ったこれもおなじみになっているシリーズが2点。
このビーズのシリーズのうち一点が新作『オートポイエーシス(Autopoiesis)』
地下には水彩やペンでのドローイング60余点が整然と並んでいる。
描かれているのは生き物にもメカにも見える物体。
タッチがアニメのラインのようだが、ここに来る前にKUKJE galleryで見たエヴァ・ヘッセのドローイングの中に見えた、有機的な機械(か、機械的な有機物)と重なるものたち。


さすがと言おうか、カードボックスにはシアトル美術館の学芸員やドイツのどこかの美術館(名前が見えなかった)の名刺が入っており、私が観覧した時には観客も西洋人しかいなかった。


しかし、キャプションもパンフレットもないというのは少し不親切。
10月1日から11月12日まで。


ユン・ジュギョン 『Contents Of Self-portrait Ⅱ』 サルビア茶房



サルビア茶房の空間(左)、インヴィテーションカード(右)。


サルビア茶房(タバン)は不思議な空間である。
ガラスの扉を開けると、すぐに鉄の階段が地下へと導いてくれる。
最後の段を降りるとそこに広がるのは、内装の一切ない、コンクリートでできた建物の基礎部むき出しの空間である。


「茶房」(=喫茶店)と名が付いているが、「いらっしゃいませ」などという店員などいない。
カウンターもテーブルもない。
壁に、なんとも無機質な蛇口が一つ付いているくらい。


その壁に、ユン・ジュギョンの写真がかかっている。
欲望の色・赤に染まった旗を持って、高速道路の分岐点に立つ男性。
プラスチックの簡易椅子の上に乗った、赤い造花。


正方形の空間のうち一方に勝手口程度の穴がぶち抜かれており、そこは1メートルほど高くなっている。
秘密の小部屋のようなそのスペースに入ると、そっと映像作品が設置されている。
6台のTVモニターの中心は、狭い空間でダンベル運動やストレッチを繰り返す作家自身。
その上には、トラックに載せられた拡声器から間抜けな音楽が流れているところをズームアップした映像。
周りの4台はそれぞれ画面の発色が違うが、すべてタイヤ集積所にもなっている荒れた山を映している。
そこを時たま、作家が大きな拡声器を担いで歩いていく。
すべての映像の始まりに、クイズ番組の音声が入る。
「みなさん、こんにちは。もう一回、大きく、アンニョンハセヨー!!」


作品は、こちらを参照。
このギャラリー、というかスペースは雰囲気が独特なので、展示の際にこの雰囲気を味方につけられるかというのは重要だ。
下手をすると、作品が飲み込まれかねない。。
その点この『Contents Of Self-portrait Ⅱ』はクリアしている。


10月6日から28日まで。


チャ・ソリム 『message&code』展 biim gallery



表通りの窓にも刻まれる文字。


朝鮮王朝時代の宮廷・景福宮(キョンボックン)の奥、三清洞(サムチョンドン)にあるbiim gallery
カフェと連結された小さなギャラリーである。


刻まれる幾多もの文字。とは言え、それは何語でもない。
ただガラス盤や鏡に並んだいびつな四角形や、白いキャンバスに白い糸で綴られた一刺し一刺しが、手紙のように見える。
作品のいくつかには、その文字の下に動くのがもどかしげな蟻が描かれている。
文字、メッセージ、コミュニケーション、人の内側にある思い、各々の通じにくさをいかにも女性らしい方法で表現した作品。


ギャラリーには作家本人もおられた。彼女は妊娠中。
内なる他者にどんな思いを抱いているのやら。


ひと針ひと針、キャンバスに「文字」もしくは「メッセージ」を縫っていくところを淡々と映した映像も、ギャラリーの階段を上ったブースに展示。


10月15日から29日まで。

次回は多分、光州ビエンナーレについて。

Posted by art,seoul at 02:16 AM

October 10, 2004

『ハングルダダ』展 SSAMZIE SPACE



更新が遅くなりました。
また、コメント欄は荒らされているので、しばらく書き込みを見合わせます。





サムジースペースのエントランス。




ソウルの西、美術学部で有名な弘益大学校(ホンイクテハッキョ)にほど近いサムジースペース
小さいながらも1階から3階まで展示スペースがある。
また、子どもたちを対象にワークショップなども開いている。



そこで今回開かれているのが、『ハングルダダ』展。
招待企画者がアン・サンス。韓国を代表するグラフィック・デザイナーである。
昨年名古屋で開かれた世界グラフィックデザイン会議にも、スピーカーとして参加している。
また韓国では、アン・グラフィックスの代表で、弘益大学校の教授。
(アン・グラフィックスは安価で内容も興味深いグラフィック雑誌『designdb』のエディトリアルデザイン等をてがけている)

アン・サンスはロダンギャラリーで展覧会『ハン・グル・賞・賛』を開くなど、ハングルという子音+母音(+子音)と部分を組み合わせて一文字を形作る朝鮮民族特有の文字で、遊ぶような作品を作る。
例えば、ハングルを使って曼荼羅を描いたりするのだ。

彼のハングルを使っての実験は、『報告書』(ポゴソ)という太い藁半紙で作られた雑誌で繰り返して行なわれている。
もっとも有名なフォントは、通常中央に向って寄せ集められるハングルの子音部分と母音部分をややスライドするように分解させたもので、今回の展覧会の名前も、そのフォントで記されている(サンジースペースのHP参照。表紙の左側、もっとも大きく書かれている黒い文字がそのフォント)。
彼もおそらく美術とデザインの境界線とは、ということを非常に考えているだろう。


これは、まさしくハングルを壊した(良い意味で)アン・サンスのプロデュースによるハングルをダダイズムの心で捉えなおす展覧会。
デザインの作品もあるがほとんど現代美術の作品で、そのどれもハングルで「遊んで」いる。


前回の光州ビエンナーレにも出展したユ・スンホは作風を変えず、細いペンでハングルを数え切れないくらい書き、その数や重なり具合によって明暗を出し、風景や人物を描いている。
風景は霧にけぶる山水に見える。

『衝突と流れ』展にも出展していたチン・ギチョンは、これも小さなハングルを数え切れないくらい書いて形作った「ブレーキ」(ネット上で出て来た一文字のハングルスラング。普通に読むと「b+u+e+r+k」で「ベク」と読むのだが、読む順番を変えて「break」と読ませる)の文字の上を、プラスチックのマウスがちょろちょろと動き回る。
マウスにはカメラが付いていて、「ブレーキ」を形作る小さな文字を接写し、プロジェクターに映し出す。
ネット世界を皮肉っているようで面白い。
CCDカメラに小さな文字や絵を映し出させる手法は、『衝突と流れ』展でも使っていたもの。

また、キム・ドヒョンの『青年ハングル』は、一枚の鉄板からハングルの子音のうちh音を切り抜き、脇に同じ鉄板で切り抜いたミッキーマウスの顔(ディズニーランドのロゴ)が転がっているというもの。
ハングルのh音は真ん中に円が開いているので、それを切り抜いたあとが転がってるのかと最初は思ってしまう。


アン・サンスの影響かどうかは分からないが、街に出るだけで、結構韓国人がハングルで「遊んで」いるのが分かる。
例えばハングルのアルファベットに似ている部分を使って英語の店名(例えば”Suezy”)を書いてみたり、子音部分をかたちどったアクセサリーや、同じ子音が並んだモノグラムの財布が売ってあったり、など。
こういうものを見ると、ハングルをまったく知らなくてもハングルの面白さを感じられるのではないだろうか。



例えばこんな。


『ハングルダダ』展もまたそう。
しかし、ハングルに関しては『ハン・グル・賞・賛』展がかなり印象的だったので、アン・サンスのハングルに対する視線、捉え方には驚嘆せざるを得ない。

9月30日から11月5日まで。

Posted by art,seoul at 11:07 PM | Comments (0)